官報に掲載された自己破産者をGoogle Map上に可視化したサイト「破産者マップ」が物議を醸しました。
このサイトは、裁判所で破産手続を行った方の名前、住所、官報に公示された日、事件番号をGoogleマップ上で公開したものです。
報道によると、一時は1日に230万ものアクセスがあったといいます。
各方面から批判を受け、「破産者マップ」は3月19日未明に閉鎖されました。
この記事では、「破産者マップ」の問題点について法律的な観点から解説します。
破産者の情報はどこから引用された?
自己破産すると、「官報」に氏名や住所などの個人情報が掲載されます。
官報とは、法律や政令の公布や公務員の人事異動などが掲載されるもので、いわば「国の広報誌」です。
官報は行政機関の休日を除いて毎日発行されており、全国にある官報販売所で購入することができるほか、インターネット上でも直近30日分がPDFで公開されています。
すなわち、「誰がいつ破産した」という情報は、官報に掲載することにより国が公にしているのです。
もっとも、毎日発行される官報の破産者情報をくまなく閲覧している人は、金融機関に勤める方など一部の方を除けばほとんどいませんし、そもそも官報の存在を知らない方も少なくありません。
したがって、破産をしたという事実が官報を通じて知人や友人に知られてしまうというリスクは事実上ゼロに等しい、ということになります。
Twitterでは、運営者を名乗るアカウントが「破産者マップ」の意図についてこう説明しています。
「破産者マップ」の問題点
「すでに国によって公にされている情報を整理し、誰でも自由にアクセスできるようにしただけなのだから、何ら問題はない」という主張は一定の説得力があるようにも思われます。
しかしながら、法律上の観点からは「破産者マップ」は憲法が保障するプライバシー権の侵害となる可能性が高いと考えられます。
プライバシー権とは、一般的に「自己に関する情報をコントロールする権利」と考えられています。
自己に関する情報には、年齢や電話番号のようにプライバシー性が比較的低い情報と、過去の病歴や犯罪歴のように、プライバシー性が高い情報があります。
過去に破産したことがあるという事実は多くの方にとって他人には知られたくない情報ですので、非常にプライバシー性が高い情報であるといえます。
公開されているとはいえ一部の人しか目にすることがなかったそのような情報をデータベース化し、みだりに検索容易な状態に置く行為は、破産者のプライバシー権の侵害と当たると言わざるを得ません。
インターネット上に他人の情報を公開することには慎重になるべき
そもそも破産という制度は、様々な事情により借金を返すことができなくなった人に対して再出発の機会を与えるためのものです。
もちろん、破産が裁判所を通じた公的な手続である以上、救済を受ける代償として氏名などが公表されることはやむをえません。
しかし、その情報をわざわざ検索可能な状態に置くことは、借金に苦しむ人が破産することを躊躇させかねない行為であり、破産制度の本来の趣旨に反するものであると考えられます。
破産者マップには多くの批判が寄せられ、公開から間もなく閉鎖されると共に、運営者は官報から取得した破産者の情報は削除する旨を投稿しました。
運営者はTwitterで「公開されている破産者の情報の表現方法を変えるだけで、これほど多くの反応があるとは思わなかった」と投稿していますが、不特定多数の人の目に触れるインターネット上に他人の情報を公開することには慎重になるべきだったといえるでしょう。