会社によっては会社所在地の近辺に債権者が集中している場合で取り立てが厳しい状況であるなど、経営者として、会社のある場所では破産申し立てをしたくないという事情もあるかと思われます。
破産事件でどの裁判所に申し立てることができるか(「管轄」といいます)は、破産法に定められており、法人破産の場合は、「主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所」となります(破産法第5条1項)。
つまり、会社(本店)が福岡市にある場合には、福岡地裁で、熊本市にある場合には、熊本地裁で破産申し立てができるということです。
なお、代表者個人に関しては、原則として住民票上の住所地が管轄地になります。
例えば、福岡市に会社があるが、熊本市に代表者が住んでいる場合には、代表者の破産申し立ては熊本地裁ですることができます(破産法5条1項、民事訴訟法4条)。
また、代表者個人の破産事件がある裁判所で進行している場合には、その代表者の会社の破産申立てを、代表者の破産事件を進行させている裁判所に申し立てることができるという規定があります(破産法5条6項)。
つまり、上記の例で言えば、会社の代表者個人が熊本地裁で破産手続きをしている場合には、福岡の会社でも、会社の破産に関して熊本地裁に破産申し立てをすることができるというわけです。
これを利用すれば、代表者個人だけ、会社とは別の県に引っ越しをした上で、先に代表者個人の破産の申し立てをして、その後に法人について、代表者の破産事件が進行している裁判所に破産申し立てをするということで、会社の所在地とは全く関係のない別の場所で会社についても破産の申し立てができるようにも思えます。
しかし、破産法には、裁判所は職権で、著しい損害又は遅滞を避けるため必要があるときは、他の裁判所へ移送することができる、という規定があります(破産法7条)。
通常の法人破産事件では、債権者の所在地や法人の財産関係などは、会社の所在地にあることが多いため、裁判所としても法人の破産事件は法人の所在地で行うべきであると考えやすく、仮に上記のような申し立てをしても、法人の所在地の裁判所に移送される可能性は高いといえるでしょう。