事業譲渡
事業譲渡とは、その名のとおり会社の事業を他の会社へ譲渡することです。
事業譲渡は、会社破産のケースでよく行われるM&Aの手法の一つです。
例えば、
- 経営状態の悪化した会社が、その事業の全てを廉価で他社に売却したうえで、もぬけの殻となった会社を破産させるケース
- 経営状態のよい部門のみを他社に譲渡して、経営状態の悪い部門のみを残して破産させるケース
などのやり方があります。
近時、事業再生コンサルタントなる会社が、このような手法についてのコンサルタントをするケースもよく見受けられるようになりました。
しかし、これらの破産時期における事業譲渡(会社分割も基本的には同様です)については、その有効性などで大きなリスクを抱えています。
倒産状態における事業譲渡のリスク
そもそも、事業譲渡契約をする上では、株主総会決議による承認、反対株主の株式買取手続などの手続要件があります。
しかし、これを満たしているとしても、事業譲渡後になされる破産手続において事業譲渡契約が破産直前に行われた濫用的なものであるとして、否認される(取り消される)こともあります。
否認されることになると、事業譲渡契約が全て取り消され、譲渡された不動産などの資産関係は全て返還されることになりますが、取引契約や雇用契約関係等は返還されたとしても破産会社がそのまま取引を続けることはできない事から、実際には、事業譲渡の適正価格の請求になるケースが多いです。
否認されるかどうかの基準の大きな点は事業譲渡が適正な価格でなされたかという点です。
破産時の事業譲渡は足元を見られて非常に廉価な価格で譲渡されることがあります。
その場合に破産管財人は、譲渡した事業の価値をバランスシート等の決算書関係や、DCF法式(将来得るキャッシュフローの割引現在価値をもって評価する方式)による事業価値などから計算し、その価格が適正でない場合には否認の主張をすることになります。
もっとも、簿価上で譲渡した事業の資産額と負債額が同額でそれを0円で譲渡した場合などは、簿価上は適正な売却であるように思われますが、そう簡単ではありません。
例えば、簿価上資産が1億円、負債が2億円ある会社(すでに債務超過)で5,000万円分の資産と負債を5,000万円分を0円で譲渡した場合には、譲受人からすれば資産と同額の負債を引き受けており、対価は0円ということも考えられます。
しかし、債権者からすれば、譲渡前に破産手続きがなされれば、2億円の負債に対して、資産が1億円であるので、配当率は50%であったが、会社分割により1.5億円の負債に対し資産が5,000万円しかなく、配当率は33%になってしまい、否認の要件たる詐害性があると判断されてしまいます(内田博久「倒産状態において行われる会社分割の問題点」金融法務事情1902号、2010年)。
まとめ
このように、倒産状態における事業譲渡については、大きなリスクがあります。
事業譲渡をした後、破産手続をする直前に弁護士に相談するより、その前の段階で相談すべきでしょう。
事業譲渡はスポンサーの選定や譲渡価格の適正性の判断など破産申し立て前段階では簡単にクリアできない問題も多いため、原則として民事再生手続の中で、またそれが難しい場合でも破産手続開始決定後、破産手続きの中で行われるべきで、申立前に事業譲渡をすることは慎重な判断をもってやむを得ない例外的な場面に限られるでしょう。